銅ヶ丸鉱山へ行き始めてからもう二十年以上が経つけれど、鉱脈鉱床を含んでいる母岩の正体を自分はずっと解明できずにいた。 鉱山跡地に広くみられるこの岩石を自分は「銅ヶ丸岩」とかってに命名して長く探求していた。 ところがこの春(令和5年春)、鉱山跡地近くの山斜面や鉱山周辺の谷川沿いで花崗岩が銅ヶ丸岩へ貫入して接している境界を発見することができ、銅ヶ丸岩は鉱山跡地よりも南東側一帯に広くみられる火山砕屑岩(主に結晶質凝灰岩)がホルンフェルス化や珪化、鉱化を強く受けてできた複次的な岩石だという確信をようやく持てるに至った。
 熱水鉱脈鉱床だけに限ってみても、鉱床のでき方などは鉱物・鉱床・岩石関係の専門書や大学の研究者の方達が出されている論文を見れば一目瞭然なのだろうけれど、短絡的に完成された科学的知識のコピーや受け売りで済ませてしまうのではなく、ちゃんとフィールドを自分の足で歩き、自分の目でしっかり観察し、そして自分の頭で考え抜く、こうやって自然を発見的に探究的に学んでいきたいものです。
 露頭状況抜群の銅ヶ丸は、野外発見学習の絶好のフィールドだと思います。


花崗岩が銅ヶ丸岩(結晶質凝灰岩が初生の岩石)へ貫入して接している境界 「その1」
(産地:美郷町銅ヶ丸鉱山)
(サンプルの表面を研磨している/右端はサンプルから製作した薄片/左端は大きさ比較のために置いた10円玉)


銅ヶ丸岩
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結晶質凝灰岩
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 銅ヶ丸鉱山跡地の鉱脈鉱床を含んでいる母岩を当館は以前から「銅ヶ丸岩」とかってに命名していますが、上の写真に示しているa-b境界よりも上側が銅ヶ丸岩で、下側が花崗岩です。 境界は矢印aの先から矢印bの先にかけてゆるくカーブして続いています。
 銅ヶ丸岩は斑状的で、薄片を顕微鏡で観察すると斑晶状の石英の輪郭はギザギザに細かく入り組んだようにな ており、斑晶状の長石は残斑晶になって輪郭が不鮮明になっています。 また、マトリックスに相当する組織は初生の岩石である結晶質凝灰岩の陰微晶質のマトリックスに再結晶が進んでかなり粗く微晶質化しています。 一見して銅ヶ丸岩は斑岩に似ていて、以前までは花崗岩の等粒状から斑状に漸移変化しているものかと思っていました。
 サンプルの右側に置いている薄片は境界を含んだ部分を切り出して制作したもので、薄片を顕微鏡で観察すると境界直近の花崗岩の側は細粒化していて石英や長石などの無色鉱物に富んでいます。 境界は不鮮明で、銅ヶ丸岩の構成鉱物と花崗岩の構成鉱物とが互いにモザイク状に噛み合ったようにして接しているのがみられます。


 ← 花崗岩が銅ヶ丸岩へ貫入して接している境界がみられる露頭

 左の写真の露頭は、数年前(令和3年7月)に発生した集中豪雨の際に山斜面を覆っていた表土が剥がれて現れたものです。 写真左端の少し斜めの立木あたりから右下に置いているリュック付近にかけて境界が通っています。

銅ヶ丸岩を貫く花崗岩の貫入脈(白い帯状の部分)↓
 境界付近の銅ヶ丸岩には、花崗岩の側から局所的に入り込んでいる同質の貫入脈がみられます。 右の写真の脈の幅は1.5〜2cm位ですが、近くの別の露頭にはもっと細い脈もみられます。 銅ヶ丸岩のマトリックスは再結晶が進んで粗く微晶質化し、さらに珪化も進んで白雲母も多量に含んでいます。
 銅ヶ丸岩の構成鉱物と貫入脈の構成鉱物とがモザイク状に噛み合ったように接しているため、脈と銅ヶ丸岩との境界が不鮮明で、あまりはっきりした脈状を呈していません。




花崗岩が銅ヶ丸岩(結晶質凝灰岩が初生の岩石)へ貫入して接している境界 「その2」
(産地:美郷町銅ヶ丸鉱山)

↑ 花崗岩が銅ヶ丸岩へ貫入して接している境界がみられる露頭
 銅ヶ丸鉱山の鉱山跡地から離れるほど銅ヶ丸岩(結晶質凝灰岩が初生の岩石)に珪化や鉱化が及ばなくなっていくので、このようなところにある花崗岩と銅ヶ丸岩との境界はかなり鮮明になっています。
 上の写真の滝(高さ約4m)は鉱山の麓を流れる谷川(今津川)の支流の小さな谷川にあって、鉱山跡地中心付近から直線距離で約350mたらずの位置にあります。 滝直下から下流側はずっと銅ヶ丸岩が続き、滝斜面から上流側はずっと花崗岩が続いてみられます。 つまり、滝直下付近をほぼ横断して花崗岩と銅ヶ丸岩との境界が通っています。
 この付近には石英脈はほとんどみられず、目立った珪化や鉱化もみられません。 花崗岩からの再結晶作用だけが主で珪化も鉱化もほとんど受けなかったので、境界が比較的明瞭に残ったのだろうと思います。


花崗岩が銅ヶ丸岩へ貫入して接している境界付近から叩き出したサンプル
 上の写真の手に持っているサンプルで、下側の白っぽいのが花崗岩で、上側の青黒っぽいのが銅ヶ丸岩です。
 花崗岩の方は中粒等粒状的で、理想的な花崗岩よりもさらに白っぽく、有色鉱物や不透明鉱物はわずかしか含まれていません。
 銅ヶ丸岩の方は写真では青黒っぽい色や茶褐色を呈していますが、これは表面付近の風化が強く進んでいる部分で、比較的新鮮な部分はもっと白っぽくて青灰色〜白灰色を呈しています。 銅ヶ丸岩は斑状的で、薄片を顕微鏡で観察すると斑晶状の石英の輪郭はギザギザに細かく入り組んだようになっており、斑晶状の長石は残斑晶になって輪郭が不鮮明になっています。 また、マトリックスに相当する組織は初生の岩石である結晶質凝灰岩の陰微晶質のマトリックスに再結晶が進んで微晶質化しています。
 上の写真の手に持っているサンプルで、一番下側の青黒っぽい色や褐色のところが銅ヶ丸岩で、その上の白っぽいのが花崗岩です。 そして、さらにその上にある青っぽい部分や茶褐色の部分は銅ヶ丸岩の砕屑物(砂粒や小礫)が花崗岩に含みこまれていると思われるものですが、不明瞭で、もしかして花崗岩が銅ヶ丸岩の中へ脈状に貫入しているサンプルかもしれません。 実際に境界付近の銅ヶ丸岩の側には花崗岩の側から派生して貫入している花崗岩質の細脈がいくつもみられます。
 左のサンプルと同様に銅ヶ丸岩は青黒っぽい色や茶褐〜褐色になっていますが、これも風化のためで、新鮮なものほど青灰色〜白灰色です。
 花崗岩と銅ヶ丸岩の特徴は、左のサンプルのものと同じです。





花崗岩が銅ヶ丸岩(結晶質凝灰岩が初生の岩石)へ貫入して接している境界!?
(産地:美郷町銅ヶ丸鉱山)

↑ 花崗岩が銅ヶ丸岩へ貫入して接している可能性のある露頭
 以前から「銅ヶ丸は自由な自然観察のフィールド」のページに長く掲載していた露頭写真で、黄色の色鉛筆の先付近を横方向に岩相の境界が通っています。 下側のザラザラした岩相は細粒等粒状的な花崗岩質岩石で、理想的な花崗岩よりも有色鉱物や不透明鉱物が少ないです。 上側のツルツルした岩相は珪長岩に似て全体に緻密ですが、斑晶状の石英が点在して含まれています。
 今までは、この岩相境界は花崗岩質マグマの結晶分化によって上下に異なる相が分離してできたものと考えていました。 つまり、この境界は岩相の急激な漸移変化によってできたものと考えていました。 しかし、最近になって鉱山跡地周辺で花崗岩が銅ヶ丸岩へ貫入して接している貫入境界に間違いない露頭を各所で発見してからは、もしかしてこの境界も同様な貫入境界の可能性があるのではないかと考えるようになりました。 つまり、今まではマグマの「上澄み液」が固まってできた岩石と考えていたものは、実は鉱山跡地にある銅ヶ丸岩と同じように結晶質凝灰岩が再結晶や珪化などの強い変質作用を受けてできたものではないか、と考えるようになりました。


 ← 露頭全景(黄色の色鉛筆の先付近を横方向に境界が通っている)

↓ 境界付近のサンプル(表面を研磨している)
  
(下の十円玉は大きさ比較のために置いたもの)
 右側の写真のサンプルは境界付近を大ハンマーで叩き出したもので、矢印aの先から矢印bの先にかけて右斜め下に境界が通っています。 境界よりも下側の白っぽいのが細粒等粒状的な花崗岩質岩石です。 境界よりも上側のちょっと青っぽいのが斑晶状の石英が点在する全体に緻密な岩石で、細粒の黄鉄鉱も点在して含まれています。
 サンプルの右側に置いている薄片は境界よりも上側の岩石から製作したもので、薄片を顕微鏡で観察すると、含まれている斑晶状の石英の輪郭はギザギザに細かく入り組んだようになっており、マトリックスに相当する部分は微晶質的で、花崗岩近くの銅ヶ丸岩のマトリックスのようにかなり粗いです。 斑晶状の長石はみられませんが、マトリックスには含まれています。 無色鉱物が大部分を占めており、有色鉱物には変質してできたと思われる緑れん石、不透明鉱物には黄鉄鉱とこれが変質してできた褐鉄鉱が含まれています。
 サンプルの左側に置いている薄片は、境界を含んだ部分を切り出して制作したものです。 この薄片を顕微鏡で観察すると、花崗岩質岩石の構成鉱物の種類や粒径とこれと接する相手側の岩石の構成鉱物の種類や粒径とがあまり違わず、これらが互いにモザイク状に噛み合ったようにして接しているので、境界がどこにあるのか判断できないくらいに不鮮明です。 互いの組織が漸移的に変化して接しているとしか思えないくらいです。
 はたして、この境界は貫入境界なのか、今までマグマの「上澄み液」からできた岩石と考えていたものは実は銅ヶ丸岩と同じ結晶質凝灰岩がもとになってできた岩石なのか。 それとも互いが漸移的に接しているもので、花崗岩と同源の岩石なのか。 これからも継続して観察活動をしていかなければならないです。




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