郷土の自然史発見

磯の自然史 江 津 の 磯 も面 白 い !

 ← 大田市仁摩町の海岸に横たわる樹幹の化石「珪化木」

 もうずいぶん前に石見銀山の普及活動をしておられる方に案内してもらって、仁摩町の珪化木を見に行ったことがありました。 大田市内では久手町羽根の珪化木が有名ですが、この仁摩町の珪化木もすごいです。 あらためて、「大田は、ええのお〜。 石見銀山あり、三瓶山あり、珪化木あり、鳴き砂あり、そして市内には様々な鉱山がある」とつくづく関心します。 まこと、大田市は自然史の宝庫であります。

  浅利トンネル付近の山にて→
 右の写真は、江津市浅利町の浅利トンネル付近の山頂から海の方を眺めているものですが、決して大陸からの密航者を監視しているわけではないです。 むしろ自分の方が某国から密航してきた特殊工作員と間違えられそうです。
 もうずいぶん前になりますが、江津市の海岸沿いにも大田市に負けないくらいの自然史関係の資源がないものだろうかと思って黒松町から波子町までをウロウロしたことがありました。

江津の海岸は、砂浜が多く磯(岩石海岸)が少ない!

(使用している地図は、国土地理院発行5万分の1地形図をコピーして加筆したもの)

    黒松町大崎 黒松町 後地町平島 後地町宝殿ヶ鼻
    浅利町浅利
    渡津町塩田
    和木町真島
    波子町大崎鼻
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宝殿ヶ鼻の海岸から風車を見上げる
④内の地点

(江津市浅利町 浅利トンネル付近の採石場 上図の内の地点)
 国道9号線を江津から大田方面へ行く途中の浅利トンネル手前の山側に採石場がありますが、ここにはまるで活断層の跡ではないかと思えるような崩落斜面が見られます。

 筆者は当初、「ここには活断層が通っている、大変だ!」と意気込んで後から双眼鏡で頂上付近を観察してみたら、どうもそうではないようなのでちょっとがっかりしたことがありました。
 しかし、頂上付近に、砂礫層が基盤岩(溶結凝灰岩)に高角度の不整合で載っているようなところが見られたので、これはもしかして基盤岩にできた高角度の断層に侵食が進んで溝状(チャネル)の凹地が形成され、ここに河川が通って砂礫が堆積したのだ。 つまり、当時まだ海岸線がずっと沖合にあった氷河期のころの堆積層だと思い、大きな興味を感じてしばらくの間この周辺をウロウロしたことがありました。 以前掲載した記事へ

 真夏の暑い時期でしたが、急崖を登って頂上付近まで行くのは危険すぎるので、背後の山間を通っている林道から藪を伐採しながら目的地まで行きました。 まこと、どえらい思いをしました。 もしかして某国の特殊工作員と思われたかもしれないです。

 礫がちの砂礫層が途中でプッツンと途切れているので、一見して断層によって切られて変位しているように見えます。 ここは急崖になっているので、実際に近寄って正確に観察できませんが、この層より上に堆積している砂がちの砂礫層は整合で堆積していて右側の露頭の方へもずっと続いているので、露頭面に現れている砂礫層全体が切られて変位していることはないです。 また、断層運動による引きずりの痕跡も全くみられません。
 もし、上の砂礫層も切られていれば活断層により変位している可能性があって大変なことになると思います。 我が郷土にも活断層が通っていることになり、近い将来大地震が起こる危険があることになります。

 ともかく、どれくらい昔かといった絶対的な年代は筆者にはわかりませんが、大昔ここには円礫がまとまって堆積するような環境があったわけで、筆者としてはここを川原の礫を堆積させるような河川が流れていたと考えています。 つまり、当時の海岸線は現在の海岸線よりもはるか沖合にあったことになります。 はたして氷期の海面低下の時代であったのでしょうか。

未固結層にみられる擾乱の跡?
(江津市浅利町 江津工業団地敷地内)
 浅利トンネル付近のチャネル充填堆積層の産地からトンネルを通って少し行くと江津工業団地の広い敷地があります。 今でこそいろんな工場が立ち並んでいますが、16年くらい前は、広い敷地内はガラガラで、砂礫層や砂層など陸成層の良好な露頭が広く見られました。
 敷地内は造成地なので、埋積され踏み固められた層が上部を覆っていましたが、その下にはスランプしたとしか思えない複雑にうねった縞のラミナ(葉理)の砂層があり、地盤の急激な隆起あるいは沈降によっておきた擾乱と思われる跡です。 現在は道路ができていて露頭を見ることはできません。

 当時撮影したデジカメの写真を不覚にも無くしてしまい(写真をストアしていたハードディスクを知らずに再フォーマットしてしまったため)、加工画像しか残っていないので大きな画像で表示できないのが残念です。(加工画像中の「写真①〜⑦」の記載は本文とは無関係です)  

  

  
 砂層には生痕や生物擾乱の跡などは全くないですが、上の写真のように1m以上もある大きな黒褐色化した樹木や褐鉄鉱で固くなった長径が4.5mもある大きな砂のノジュールなどを含んでいて、その間を埋めるようにして複雑にうねったラミナの砂層があります。 この砂層にはところどころに小断層と思われる軽微な断裂がみられ、それに沿って弓なり状のラミナがみられます。
複雑な形状のラミナは、地震の急激な地盤の変動によって層内にできた擾乱の痕跡かもしれないです。 もしかして、江津沖の海底には活断層があるのではないのか、と思いたくなります。

 江津工業団地の敷地内には砂礫層や砂層といった未固結層がいたるところにありますが、このような未固結層は石見地方の日本海沿岸に「都野津層群」として一括命名された更新統として分布しています。 都野津層群に関しては、在野の研究者の中で調査研究では県内でこの人の右に出る人はいないと言われるほどの著名な人で浜田市在住のU氏という方がおられます。
 もともと都野津層群には海成の粘土層も何枚も挟在していましたが、古くから瓦粘土の材料として採取されたため、現在では砂礫層ばかりが残っているような感じになってます。 自分が高校生だった1970年代のころはまだ高校裏の丘陵地の切割りにも暗灰色〜青灰色を呈する海成粘土層があり、自分が卒業して間もなく、市内の海成粘土層から哺乳動物の部分骨格が発見されたことがあったそうです。 更新世のころのいろいろな海生動物の遺骸や生痕が含まれていた層が失われてしまったのは大変残念です。

 最近(令和3年の秋頃)、いわゆる「漂流軽石」が沖縄などへ大量に漂着して、水産漁業に多大な被害を及ぼしているニュースをよく聞く。 19年前、江津の岩石海岸(磯)をウロウロしていたとき軽石起源ではないかと思える白っぽく緻密な岩片を多数含んだ岩脈の露頭を観察したことがあったのを思い出し、もしかしてこの岩脈は漂流軽石を含んだ砕屑岩脈ではないだろうかと直感して、先日久しぶりにこの海岸へ行ってみた。

塩田海岸の洞穴と侵食地形(江津市渡津町塩田海岸)
↓洞穴(青の洞門)
↓谷状の侵食地形
 左の写真は海岸の東側にある洞穴で、筆者がかってに「青の洞門」と命名しているもので、右の写真は洞穴と反対の西側の海岸にある谷状の侵食地形です。 この付近の海岸には西北西方向の断裂(岩の割れ目)が何本も顕著にあって、洞穴も谷状の侵食地形もこれらの断裂に沿った波による侵食作用(波食)が進んでできたものだと思います。 洞穴がどれくらい深いかわかりませんが、おそらく、谷状の侵食地形にさらに波食が進んでいけば、洞穴の最奥が貫通しトンネルができると思います。

太古の漂流軽石を含んだ砕屑岩脈?
  
 19年前に塩田海岸一帯の岩石を観察してウロウロしていたときに発見したものです。 上の写真の露頭で白っぽい岩片を多数含んでいる幅30センチ位の帯状のところが太古の漂流軽石を含んだ砕屑岩脈ではないかと直感したものです。
 この付近の主な地質体は珪長質〜中間質の中粒花崗岩質岩石で、上の写真の岩脈の両側も花崗岩に似た中粒花崗岩質岩石です。 花崗岩質岩石は、塩田から浅利へかけて分布している溶結凝灰岩の層へ広域的に貫入していて、溶結凝灰岩へ再結晶作用や熱水変質作用を与えています。
 この岩脈の中に含まれている白っぽい岩片(角礫)は、斑晶状の細粒の石英をわずかに含んだ全体に緻密(微晶質的〜陰微晶質的)なもので、無斑晶的なものも多くあり、また細粒の黄鉄鉱が含まれているものもあります。 まるで、いわゆる「オーソコーツァイト」のようなものもありますが、ただし円礫ではなく、あくまで角礫です。 問題なのは、岩片同士の間を埋めているマトリックスにあたる部分ですが、どうも細粒等粒状的で石英閃緑岩や閃緑岩に似た中間質の花崗岩質岩石のようです。 しかし、もしかして砂粒などの砕屑物が集まって固結した砂質かもしれません。 近いうちに自然館で薄片を作って顕微鏡で確かめてみようと思います。

 岩石海岸(磯)などを歩いてみると、波打ち際の岩の割れ目などに漂流物が挟まっているのをよく見かけるものです。 特にハングル文字が書かれたペットボトルや流木が多いです。
 塩田海岸にあるこの岩脈に含まれている白っぽい岩片は、きっと太古の昔、遠方から漂流してきた軽石が波打ち際にあった岩の割れ目の中に土砂といっしょに含み込まれたものだ、と直感してわざわざ塩田まで行って確認してみたのですが、残念ながら違うみたいです。
 おそらく、この白っぽい岩片は溶結凝灰岩の層をつくっていた岩石だと思います。  細粒の黄鉄鉱を含んでいる岩片などは、熱水変質を強く受けた溶結凝灰岩からもたらされたものにちがいないです。
 太古の漂流軽石でなくてちょっと残念でした。  



磯の自然史観察に最適なフィールド



磯の自然史観察に最適なフィールド



ご注意:「ノジュール」よりも「コアストーン」の方が適語かもしれませんのでご注意ください。



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