(H22年5月3日と6月1日掲載の記事をもとに作成)
郷土の自然史発見 その7と8

およそ三千万年前の火山活動でできた凝灰岩の地層と溶岩・貫入岩の大地に
断層や節理に沿って侵食が進んでできた渓谷


千丈渓の自然史あれこれ
位置:島根県江津市桜江町江尾~邑智郡邑南町日和

 千丈渓は、邑南町日和から桜江町江尾へかけて流れる日和川が長い地質時代を通して、主に凝灰岩の岩肌を侵食してできた谷です。 延長約4kmのこの渓谷の各所には飛瀑、深淵、絶壁などが見られ、昭和7年に国の名勝に指定され、年間を通して多くの観光客が訪れています。
注:観光関係のパンフや看板などにはよく「石英粗面岩」という語が使われていますが、これは流紋岩の同義語として古くから使われていたものです。 実際に千丈渓流域の主な岩石は「結晶質凝灰岩」や「溶結凝灰岩」などの火山砕屑岩類です。 流紋岩はありません。 現在は科学の分野でも「石英粗面岩」という岩石名は使われていません。

 平成25年8月の集中豪雨の被害は特に江ノ川の支流の谷川流域で大きかったです。 特に日和川流域の観光地として知られている千丈渓や田津谷川流域の龍頭ヶ滝付近などは壮絶なもので、もはや再起は不可能という状況でした。 しかし、千丈渓の方は復旧工事のおかげで今春(令和2年)から復活しそうです。 残念ながら龍頭ヶ滝の方は、いまだに復旧工事がされず放置されたままです。(龍頭ヶ滝の資料へリンク
 とにかく千丈渓は従来からよく知られている自然関係の観光地で、動植物はもちろん自然史関係も特徴の多い自然観察路として最適のフィールドです。 特に新緑や紅葉の季節には最適だと思います。 災害から復活した千丈渓を歩いてみていただきたいです。

千丈渓流域の主要な景観ポイント

(国土地理院発行 1:25000地形図「川戸」をコピーしたものに加筆)
 千丈渓には、白藤滝や一ノ滝のようにちゃんと名前が付いている滝が多いですが、なかにはけっこう見応えがあるのに名前のない無名の滝も多いです。

 上の写真の滝は、遠くから見ると堰堤の上を水が流れているように見えるので「堰堤滝」とかってに当館が命名しています。

千丈渓流域の特徴ある自然史ポイント

(国土地理院発行 1:25000地形図「川戸」をコピーしたものに加筆)
 日和川流域は、なぜ渓谷になり得たのか、なぜ千丈渓ができたのか、といった問題に一応の答えを提供してくれるのが、流域沿いの各所に見られる角礫状の岩相で、いわゆる断層破砕帯です。

 上の写真は駐車場脇の露頭に見られる断層破砕帯の岩相で、大小の花崗岩の角礫からできている断層破砕岩(カタクレーサイト)です。

千丈渓主要ポイント間の勾配


千丈渓流域の岩相分布

(国土地理院発行 1:25000地形図「川戸」をコピーしたものに加筆)
 千丈渓流域の地質平面図を作成してみると、図面上の地質境界線や断層線がちょうど日和川と交差する付近でプッツンと途切れて、ここから先続いていないというところが日和川沿いに約500mの間隔をおいて二箇所あります。 このことから、比和川沿いに断層が通っていて、見かけ上約500m変位したことが推定できるのではないかと思います。

相生滝(千畳敷の下流端付近)を横断する岩相境界
 相生滝は千畳敷の下流端付近にある滝で、あまり落差はありませんが、この付近の岩相を詳しく調べてみるといろいろな発見があります。
 相生滝をはさんで下流側には下部凝灰岩層(結晶質凝灰岩)が、上流側には上部凝灰岩層(溶結凝灰岩)があり、その間に岩相の境界が横断しています。 この境界が不整合境界なのか断層境界なのか、まだはっきりわからないので今後の当館の宿題といったところですが、いまのところ不整合境界にしています。
相生滝(上流側が千畳敷)

相生滝〜千畳敷付近の溶結凝灰岩にみられる溶結構造
 相生滝の頂上から千畳敷にかけての溶結凝灰岩には、暗灰色の長径5mm〜1cm位のレンズ状がレンズ面をそろえるようにして並んでいるのがみられます。(上の写真の露頭面は、レンズ面にほぼ垂直な向きにあります)
 これをもとに地層の姿勢を計測してみると溶結凝灰岩の地層は南南西側へ約35度傾いていることがわかります。 千丈渓流域の北方には花崗岩が広く分布しています。 やはり、花崗岩が広域的に貫入してきた際に上位にあった溶結凝灰岩などの地層を持ち上げたためだろうと思います。
岩相境界付近

 相生滝の北東側山斜面には下部凝灰岩層の結晶質凝灰岩と上部凝灰岩層の溶結凝灰岩が互いに接している露頭があります。 上の写真のものが高角不整合のような不整合境界であるかはちょっと問題で、もしかして右側が左側の大きな岩塊を含み込んでいるのかもしれません。

溶結凝灰岩の中に含まれている
結晶質凝灰岩の岩片

 相生滝の滝壺付近の露頭には上部凝灰岩層の溶結凝灰岩の中に下部凝灰岩層の結晶質凝灰岩の岩片が含まれているのがみられます。
無名の滝
 一ノ滝から下流側へ約100mくらい下ったところにある高さ約5mの滝で、名前は特に付いていません。 この滝の上流側にも下流側にもたくさんの甌穴があります。

甌穴
 上に掲載の「無名の滝」の近くにある甌穴で、細長い形状の穴の中に石ころが一つ入っています。 増水時には、この石ころが穴の中でゴロゴロと周りを穿って徐々に穴を成長させていきます。

水辺にあった鹿の足跡
 白藤滝近くの林道を歩いていたとき、急に脇の草むらから一頭の鹿が飛び出て走り去っていった。 この後、脇の水辺に降りてみたら鹿の足跡が残っていた。 水を飲みに山から下りてきた鹿のようだった。

レンズ状に扁平した岩片
 上部凝灰岩層(溶結凝灰岩)はレンズ状に扁平化した岩片を含んでいるのが特徴で、上の写真のものは淡褐色斑状のレンズ状岩片を含んでいます。

結晶質凝灰岩
 下部凝灰岩層の岩石で、破片状に粉砕された石英や長石などの鉱物結晶をたくさん含んでいて、ギラギラした様相を呈しています。

溶結凝灰岩
 上部凝灰岩層の岩石で、破片状に粉砕された鉱物結晶とともに長径5mm〜5cm位のレンズ状岩片もたくさん含んでいます。 写真の溶結凝灰岩は白っぽいですが、千丈渓流域には灰黒色や暗青色、暗灰色などいろいろあります。

千丈渓は、紅葉ハイキングに最適!(江津市桜江町江尾)
(ご注意:近年、集中豪雨による土砂災害で通行止めになることが多いです。)

スライドショーの間隔時間の調節
(0〜10秒):
 010秒
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間隔時間:5秒 

地点番号①:大駐車場
ご注意:
 インターネットの通信速度が遅いと最初は画像の切り替えがスムーズにいきませんが、スライドが一巡してからは順調に切り替えられるようになります。


スライドショーの間隔時間の調節
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間隔時間:5秒 

地点番号①:駐車場付近に見られる断層破砕帯
ご注意:
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